隈氏のデザインした根津美術館の椅子は簡潔そのものでした。フラットで薄い座面に緩やかに円弧を描く背もたれが付き、薄い座面から視覚的にも繊細に見えるように内側を面取りした細い4本の脚がスッと伸びています。この椅子を木工で製作するには座面が薄過ぎて構造的に非常に厳しかったのですが、木工だけで作らなければ、この意匠をこの構成で作る意味がありません。実現するためには見えない仕口の構造で強度を確保する方法しか残されていませんでした。如何にして木工技術だけで強度を確保できるかを、工場と共に思索し何度も試作を繰り返し、ようやく根津美術館の椅子が完成しました。